世界に開かれた大学、世界に貢献する大学、「世界適塾」を目指して
世界には言語、人、習慣、文化や宗教などの多様性が存在する。この多様性は革新的なイノベーションの創出や心豊かな人類社会の営みにとって不可欠である。一方多様性は負の側面として様々な障壁や紛争をもたらす。人類の歴史は多様性による発展と多様性がもたらす対立や戦争の歴史でもある。21世紀半ばには、地球人口は90億人に達すると考えられている。急激な人口増加のみならず、情報通信や移動手段の発達により世界はますます狭くなり、国境を越える人の移動や都市への流入も進む。情報は瞬時に世界を駆け巡る。人類歴史の中で過去に例をみない次元とスピードでグローバル化が進む現在の国際社会では、多様性が狭い時空間に濃縮され多様性のもたらす様々な対立が世界に蔓延しつつある。臨界点を越えて多様性が濃縮され、21世紀は「多様性の爆発の世紀」になる可能性がある。21世紀のグローバル化社会においては多様性を維持しながら、多様性が生み出す障壁を乗り越えることが人類の生存にとり不可欠である。
大学は「学問の府」である。「物事の本質を見極める」研究や、「本質を見極める能力」を有した人材を育成することにより、社会に貢献するという役割は過去、現在、未来において不変である。そのうえで、21世紀の大学には更なる役割がある。それは「学問による調和ある多様性の創造」によりグローバル社会に大きく貢献することである。学問は芸術、スポーツや経済活動等と同じく人類共通言語だ。これら人類共通言語は様々な障壁を乗り越える大きな力を有している。学問を介する人材交流により、多様性の維持とそれが生み出す障壁の克服という、相反することの両立が可能となる。学問を介する世界規模での人材交流により異文化の相互理解や尊重を今まで以上に推進する必要性がここにある。
21世紀のグローバル社会において、大学には専門分野を超えた能動的な「知の統合」を通じて人類的な課題を解決するとともに、最先端の科学技術や研ぎ澄まされた感性と賢慮によって、次代に輝ける未来を手渡していく責任がある。21世紀の人類が抱える課題は多岐にわたる。「21世紀はアジアの時代」と言われるように、アジアは最もダイナミックな地域になるであろうことは確実視されている。また劇的なスピードで昂進する地球人口増加や先進諸国における超高齢化の影響が社会の隅々にまで波及する。グローバルな規模で人間の欲求や活動が無分別に拡大すれば、地球全体の環境収容能力が破たんしかねないリスクも膨らんでいく。自然災害や感染症など人々の平和や安全を揺るがす新たな危機や未知の脅威にも目配りをしていくべきだろう。水や食料、環境とエネルギー、情報と知識、医療と福祉、政治と経済など、私たちの生命や暮らしに直結した資源や制度をいかに管理・運営し、さらに地球の生態バランスを維持していくのか、これら複合要因に基づく課題を如何に解決するかなど、地球規模の課題解決がますます重要となる。21世紀においては、情報科学や生命科学等がもたらす科学・技術の革新により人類社会が根底から変ることが予想され、公共倫理に基づくガバナンスや人文社会科学がますます重要となる。
私たちは、未来をただ待つのではなく、多様性を維持しつつ、未来を創っていかなければならない。緒方洪庵が大阪の船場に開いた「適塾」を原点とする大阪大学が世界に開かれた大学、世界に貢献する大学、「世界適塾」として、「学問による調和ある多様性の創造」を理念に掲げる理由は、「適塾」が日本各地から学問を介して若者を集め次代を切り開く人材を育成したように、「世界適塾」として世界から多様性を有した人材を集め、育て、世界に送りだすことにより、学問の発展のみならず多様性がもたらす障壁を乗り越え、心豊かな人類の発展に貢献することにある。そのためにも、大阪大学は自らの力を磨き上げ、研究型総合大学として「世界トップ10」に入るような大学になる必要がある。「人のため、世のため、道のため」という緒方洪庵の利他の精神を引き継ぎ、「世界適塾」として、世界各地から集まる優れた頭脳と才能の潜在力を最大限に引き出しうる充実した研究・教育環境を提供していきたい。「学問による調和ある多様性の創造」により多様性の障壁を克服するとともに、物事の本質を極める真理の探究と人間形成の機会を通じ、「次」の未来のよりよい社会を創造するトップリーダー、卓越した研究者、高度専門技術者らを輩出したい。そして心豊かな人類社会の発展に貢献していく。また、「地域に生き世界に伸びる」をモットーとする本学は、日本の国立大学法人としての社会的な責任を自覚し、さらに帝国大学として出発した本学が市民の力によって生まれた創建の経緯を踏まえつつ、国内外の市民や行政、経済、産業界など幅広いパートナーと手を携え、共に前進を遂げ、それを世界につなげる世界に開かれた大学、世界に貢献する大学、「世界適塾」として発展していく。