現時点でワクチン接種がなぜ最優先事項か?
根本的な感染症の克服はワクチンと治療薬である。
例えば、アステカ文明やインカ帝国を滅亡に追いやるなど人類の歴史に大きな影響を与えた天然痘は18世紀末にジェンナーがワクチンを発明した二百年後に人類社会から撲滅された。今やポリオも撲滅寸前であり、多くの感染症がワクチンの開発により人類の脅威ではなくなりつつある。一方、ワクチンがなくてもペニシリンの発見など抗生物質や治療薬の開発により多くの感染症の脅威から人類は免れてきた。例えば最近ではエイズである。エイズに対するワクチンは存在しないが、治療薬の開発により今や死の病ではなくなった。
歴史はワクチンと治療薬の開発が感染症克服のキーであることを証明している。
新型コロナウイルス感染症に関しては、当初はワクチンも治療薬も存在しなかった。そのような状況下では検査体制整備による感染者の隔離と、医療体制整備が最優先事項であった。
現時点では、残念ながら画期的な治療薬の開発には至ってはいない。しかし、幸いなことにワクチン開発が当初の想定以上に早く成功した。ここに至っては、ワクチン接種を可能な限りスピードを上げて推進することが、最優先事項となる。現に、ワクチン接種が進んだイギリスやアメリカ、さらにはヨーロッパでは社会活動が再開されつつある。この現実を見て、日本もようやくワクチン接種の重要性に気がつき始めたようだ。しかし、7月末までの高齢者へのワクチン接種を最大の目標にしているようでは認識が甘いとしか言いようがない。
7月末までの高齢者のワクチン接種完了はあくまでも通過点である。変異ウイルスのの出現により高齢者のみならず若年者の重症化例が増えつつある。昨年の冬を思い出してほしい。なんとしても冬が始まる10月末までに18歳以上の全国民へのワクチン接種を完了することを最優先事項にしなければならない。その上で、休むことなく18歳以下へのワクチン接種を推し進めていかなければならない。この目標が達成されれば、現在抱えているあらゆる社会問題や経済問題解決への道が開かれる。
政府、自治体、経済界、学術界や医療関係者が、一丸となりあらゆる手段を講じて目標達成のための知恵を出し、努力すべきだと思う。打ち手が足らないのなら、薬剤師や医学部学生なども動員すべきだ。現在の法律のもとでも医学部学生は指導医の監督のもとに筋肉注射などの医療行為をすることができるし、現に医学部における学生教育においては実施されている。もちろんもっと多くの地域医療機関がワクチン接種に積極的に参加することが重要だし、社会が望んでいる。このように緊急時においては可能なことは全て行い、10月末までの18歳以上の全国民に対するワクチン接種完了という戦略目標に向けて戦術を立てて臨むべきだと思う。その先には国民生活や経済活動に明るい光が輝いている。
時間は限られている。しかしまだまだ150日もある。アメリカは100日間で2億回ワクチン接種を実行した。
ワクチン接種のスピード化のための具体案
1)会場で余ったワクチンは年齢制限や予約なしでワクチン会場の運営者や高齢者の付き添い人、あるいは会場周辺で待機している人などに接種するなど、可能な限り柔軟な運営を行う。
2)現在自治体が中心となって進めている接種計画(高齢者―>65歳以下の基礎疾患を有する人―>65歳以下の人)は様々な改善をしながら可能な限りスピードアップして継続する。このルートでは、原則として全ての医師会会員のクリニックが協力する(補足説明1参照)
3)政府と自衛隊が運営している大規接種会場は目標達成まで継続する。
4)上記2と3の自治体や自衛隊のルートとは別に、政府―>企業向けルートを早急に設けて(例えば各地域の経済団体単位)、年齢に関係なく産業医や支援者などによりワクチン接種を職場単位で開始する。
5)さらに、政府―>病院を有している学校や研究機関などの組織向けルートを早急に設けて、職員や学生を対象に、年齢制限なしの接種を当該機関で開始する
6)さらに、政府―>自衛隊、海上保安庁、警察、消防庁などのルートを早急に設けて年齢制限なしの接種を当該機関で開始する。
7)地域の公立病院、大学病院に地域住民用のワクチン接種を義務付ける。
8)打ち手が不足しているなら、歯科医師のみならず、薬剤師、獣医師、医学部学生(補足説明2参照)などが接種できるようにする(補足説明3参照。
補足説明
1)変異ウイルスの出現や免疫の持続性などを考えると毎年のワクチン接種の必要性になる可能性が高い。したがって、地域に根差した医師会の全面的な協力が必要であり、原則全ての医師会員のクリニックで接種可能にする。
2)現在の法律のもとでも医学部学生は指導医の監督のもとに筋肉注射などの医療行為をすることができるし、現に医学生教育においては実施されている。
3)クリニック開業医10万人、勤務医17万人、歯科医師10万人、看護師160万人、合計197万人で、約200万人となる。接種対象者を1億700万人(65歳以上3600万人、15−64歳人口約7400万人)とすると、2億2千万回の接種が必要。一人が5ヶ月間で110回接種すれば(月に22回)目標を達成できる計算になる。