桃陰だより37号寄稿文より、一部抜粋
世界中で新型コロナウイルスの嵐が吹き荒れている。またポストコロナに関する議論が盛んである。果たしてポストコロナと呼べる時代は存在するのだろうか? 今一度、人類20万年の歴史を俯瞰したうえで、COVID-19の意味を考えてみたい。
20万年の人類歴史上、少なくとも大きな波が4回はあった。20万年前から1万年前まで続いた最初の大波では、東アフリカに誕生した人類が世界に拡散した。そして1万年ぐらい前に農耕文明とともに始まり13世紀まで続いた第2波では、言語、人、習慣、宗教などの現在の多様性の基盤が確立された。第3波では、13世紀にモンゴル帝国が設立され大航海時代が始まった。そして18世紀に産業革命とともに始まった第4波では、科学技術革新が凄まじいスピードで進み、世界覇権競争の結果として世界大戦を2度も経験した。1989年のベルリンの壁崩壊を境に人類は第5波に入ったと思う。それは移動手段や情報伝達手段などの著しい進展による相対的な地球狭小化がもたらす多様性の爆発だ。我々は今、第5波の中に位置していることを念頭に、COVID-19の意味を見据えながら、第5波をどのような観点に立ち生きていくかを考えることが重要だと思う。
18世紀に始まった産業革命により科学技術革新が急速に進み、人類社会は飛躍的な発展を遂げ、人口も70億人を突破した。一方、環境問題、エネルギー問題、食料問題など複合的な負の遺産も背負うこととなった。第5波は、第4波の負の遺産が一気に表面化する時代でもある。COVID-19や増大する自然災害の脅威という形で現実の問題となっている。感染症も環境問題として捉える必要がある。結核、はしかや水痘などの伝統的感染症は、第2波において人類が農耕文明開始と同時に野生動物を家畜化した結果、家畜から人類に伝播したものだ。しかるにCOVID-19などは環境破壊により野生動物と家畜も含めた人類社会が限りなく接近した結果、野生動物から人類に伝播したものだ(家畜が媒介することも含めて)。伝統的感染症は1万年の歴史を経て定常状態にあるが、COVID-19のような新興感染症は家畜ではなく野生動物からの人類社会への伝播であり、今後無限に発生する危険性を孕んでおり、COVID-19は今後も発生するであろう新興感染症の単なる1つでしかない。
第5波はこのように、新興感染症への対応にとどまらず、環境問題、エネルギーや食料問題など複合的な問題を抱えている。さらに、生命科学が一線を超えて、ゲノム編集/デザインベイビー、再生医学/生物学的寿命のブレイクスルー、脳科学/心の操縦など、神の領域を侵しつつある。その一方ではサイバー空間と現実空間の融合が進み、情報が氾濫し、人々は情報に縛られ情報が社会を支配しようとしている。究極の次元にまで発展してきた生命科学や情報科学を、それらが内包する負の側面を乗り越えて、如何に社会に取り込んでいくかの問題でもある。すなわちポストコロナは単なる通過点でに過ぎず、人類は巨大な第5波を如何にして乗り越え、持続可能な社会を構築していくかという長期的視野に立った観点が必要だと思う。COVID-19だけを見つめると大局を見失う。
新型コロナウイルスは、いみじくも私たちに、「世界は1つである」こと、「国境はないこと」を教えてくれた。最近芽生えつつある、グローバル化から一国主義、協調から対立へ、信頼から疑心暗鬼への流れに新型コロナウイルスは警鐘を鳴らしている。世界は協調しなければ新型コロナウイルス感染症を。克服することはできない。ましてポストコロナをも飲み込む第5波の大波を乗り越えて人類が未来を開くことはできない。今こそ、「地球市民」としての自覚と、「相手の立場を尊重し、信頼し、助け合う、連帯と協調の精神」が重要だ。
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人類史20万年間における5回の大波
第1波:20万年まえ−1万年まえ:ホモ・サピエンスが5大陸に拡散
ーーー>コイサン、コーカサイド、モンゴロイド、アボリジニの4つの人種
第2波:1万年まえ−12世紀:文明開化、多様性の基本確立
ーーー>言語、人、慣習、文明、宗教、伝統的感染症(動物の家畜化による家畜から人類への伝播:結核、はしか、水痘、天然痘など)
第3波:13世紀−17世紀:モンゴル帝国、大航海時代
ーーー>世界が7つの海で繋がる、感染症の拡散(暗黒のヨーロッパ中世、アステカ/インカ文明の崩壊など)
第4波:18世紀ー20世紀:産業革命、大英帝国、2回の世界大戦、冷戦
ーーー>政治的/軍事的世界覇権競争、感染症との戦い(病原菌の発見、予防注射、抗生物質の発見など)
第5波:1990-現在:情報伝達手段、移動手段の革新、地球の狭小化、環境破壊
ーーー>多様性凝縮、多様性爆発、新興感染症の爆発(環境破壊による野生動物から人類社会への伝播)
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