現在、医療崩壊を防ぐために、社会距離戦略を進めて、流行のスピードを抑えながら収束を目指すという発想で政策が進められている。しかし、医療体制や検査体制の整備はあまりにもゆっくりである。この発想で今後も続けるのは如何なものかと思う。この発想を転換して、医療体制のキャパシティと検査能力を積極的に上げることにより、社会距離戦略を緩和しながら、出口戦略を立てるという考え方に転換する必要があると思う。医療体制のキャパは感染症対策の律速要因であり、検査体制は現状把握と流行予測の要であることを明確に認識してそれに全力投球すべきだと思う。
日本より少し遅れて流行が始まったドイツでは、すでに出口戦略を模索している。ドイツは自信があるに違いない。この2ヶ月間に検査体制を整えるとともに、現在もさらに増強する努力をしている。医療崩壊防止の要はICUであるという明確な認識の下に、ICUを40%増やし、現在4万床を保有する。ドイツの人口は約8000万人なので、日本では6万床に相当する。日本はこの間に目立った増床をすることこともなく約6000床に止っている。単位人口当たりでは、ドイツは日本の10倍のICUを有する。
現在のPCR検査では、約0.012%が感染していることになっている。しかし、実際は0.1%なのか、1%なのか、あるいは10%なのか不明だ。ニューヨーク州では抗体検査の結果、PCR検査の10倍の15%(ニューヨーク市では25%)が抗体陽性だ。これは集団免疫が成立すると仮定すると、収束に近付いていることを意味する(集団免疫閾値:20~60%、基本再生産数1.25〜2.5と仮定)。日本は、これらの情報が全くなく、登山で言えば何合目にいるかもわからずに、地図なしで暗夜をさまよっているのと同じだ。
医療崩壊していない、ドイツと日本を比較してみると、致死率 (3-4%)はほぼ同じだが、感染率は、日本はドイツの20分の1だ(ドイツ2% vs 日本0.012%)。これが事実だとすると、日本では感染しにくいことを意味している(すなわち基本再生産数が小さく集団免疫閾値も小さい)。しかし、PCR検査数が少ないので感染率が実際よりも低くなっているだけかもしれない。検体数を増やした時に、ドイツ並みに感染率が増えたとすると、逆に致死率はドイツの20分の1ということになる。すなわち日本人は重症化しにくいという結果になる。どちらが正しいのか、あるいは両方の要因が混じり合った結果なのかは、無作為抽出抗体検査により感染率を正確に調べることにより判明するはずだ。感染しにくいということは基本再生産数が低いということであり、ドイツよりも感染割合が少ない状態で収束することになる。予想される死者の数も少ないことになる。また、致死率が低ければ、医療崩壊のリスクも低く、最終的な死亡者の数も少なくなる。ICUもドイツほど必要はなくなる。日本は、感染しにくいのか、あるいは重症化しにくいのか、あるいは両方なのかは、現時点ではわからない。やはり戦いに勝つには敵を正確に知ることが重要だ。