ユウ”ァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳
サピエンス全史:文明の構造と人類の幸福 河出書房新社
これは単なる人生論ではない。単なる幸福論でもない。単なる未来予測本でもない。単なる歴史書でもない。現代を生きる私たちが、「自らはそもそも何者か?」、「私たちは何を望みたいのか?」を、今一度考え直すための必読書である。「歴史を研究するのは、未来を知るためではなく、視野を広げ、現在の私たちの状況は自然なものでも必然的なものでもなく、従って私たちの前には、想像しているよりもずっと多くの可能性があることを理解するためなのだ」。
7万年まえホモ・サピエンスはアフリカの片隅で生きていくのが精一杯の取るに足らない動物だった。それが今、地球の主となり、生態系を脅かすに至った。今日、ホモ・サピエンスは神になる寸前で永遠の若さばかりか、想像と破壊の神聖な能力さえも手に入れかけている。その特異点は7万年まえの認知革命で始まった。それは想像力の獲得だった。虚構の世界を語ることができる能力を手に入れた時点から始まった。伝説、神話、神々、宗教という、見ず知らずの多数の人が共有できる虚構の世界を開いた。単に伝説や神話に止まらず、企業、法制度、国家、国民、さらには人権、平等や自由、全てが虚構の上に成り立っている。そう全てが虚構なのだ!
人類の歴史の3つの変革期は、認知革命、農業革命、科学革命であり、その結果、今、サピエンスは自然選択の法則から知的設計の時代(人為選択の時代)に突入している。その行く先には、サピエンスとは能力も感情も全て異なる、現在のサピエンスの虚構の世界とは全く異質の、現在の世界が全て無意味になる、そのような時代を開く特異点を目の前に迎えようとしている。物理学者はビックバンを特異点としている。それは既知の自然法則が一切存在していなかった時点だ。——————私たちは新たな変革期(作者は特に特異点と記述している)に急速に近づいているのかもしれない。その時点では、私、あなた、男性、女性、愛、憎しみといった、私たちの世界に意義を与えているものの一切が、意味を持たなくなる。なんであれその時点以降に起こることは、わたしたちにとって無意味なのだ。—————私たちが真剣に受け止めなければならないのは、歴史の次の段階には、テクノロジーや組織の変化だけではなく、人間の意識とアイデンティティの根本的な変化も含まれているという考えだ。
そして、この特異点に驀進している推進力は不死を探求するギルガメッシュ・プロジェクトに根ざした科学革命である。それは500年前に始まり、サピエンスは「全てを知っている」神話や宗教などの虚構に基づく時代に決別し、「全て知らない」無知の時代への新たな時代を開いた。
まさに目から鱗である。訳者も述べている。先入観や固定観念、常識を覆され、視野が広がり、新しい目で物事が眺められるようになるという体験を楽しんでいただければ幸いだ。